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イルカが愛を確かめにくる、青い海の底の日常生活

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「日出処の天子」 山岸涼子作

ちょっと前に読み終わってたんだけど、「花より男子」の勢いに飲まれて、こちらの感想が遅くなってしまった。
なにか歴史に絡んだマンガが読みたい! と思い、評判の良いこのマンガを買ってみた。厩戸王子(聖徳太子)を描いた話なんだけど、大抵はこの人に関して、「冠位十二階と遣隋使」「憲法十七条、いっぺんに十人の話を聞いた」「お札の人でなんか温和そう」という、聖人のようなイメージしか持ってないのではないか。
ところがこのマンガでは、実は超能力者で同性愛者だった! というかなり衝撃的な解釈をしている。
まあ、同性愛者と言っても、なんか一部マニアがやたらと支持する‘やおいもの’みたいな下世話な感じではなく、あくまで神仏世界にも通じる精神性を求めたものなんだけど(とは言っても検索すると相変わらずやおいの観点を追求したサイトが出てきてクラクラしますよ、気持ち悪いから見ないけど)、それ以外にも、愛憎うずまくショックな展開が待ち受けている。

半分までは普通の歴史ものという感じで読んでたんだけど、後半の怒涛の展開に、あわわわ刀自古が・・・ぎゃーこ・この人ってば・・・なんて興奮して読んでしまった。最後にドッカンと超ド級の衝撃度で終わる、孤独な厩戸王子の物語。少女漫画にあるまじき、独特な寒々しさ。いや、きっと少女漫画とか言っては失礼なスケールなんだと思う。
しかも、巻末に「馬屋古女王」という後日譚のような話が入っていたんだけど、これが本当に気持ち悪い。いや、薄気味悪いという感じ。寝る前に読んだら夜中に目が覚めてしまい、思い出せば思い出すほど怖かった。
そう、あたしにはこのマンガの大きなイメージは、‘不気味’なのだ。あの厩戸王子の意外な人物像も。目が点になってしまうような人間曼荼羅も。最後に厩戸王子が選ぶあの結末も。よくここまで大胆に考えられたなと思う。またこの時代の系図を見ると、ピタリと当てはまってしまうのもすごい。

そして感心したもうひとつのことが、蘇我氏の家系の誰をも悪役として見立ててないこと。蘇我氏と言ったら残虐なイメージがあるけど、馬子の憎めないおやじキャラも、毛人の愛に悩む優柔不断ぶりも、入鹿の無邪気さも、残虐さにはほど遠い。作者が今までのイメージを全て覆し、発想豊かに描いたのが伝わる。だからこのマンガは名作として残ってるんだと思う。
ただ、静止画の美しさとは裏腹に、かなり動画に弱い作者だという欠点は否めないけど。合戦シーンの矢なんか、マトリックスかいっ! ていうぐらい止まって見えるし(笑)

「ベルサイユのばら」を描いた池田理代子も、聖徳太子を描いてるのを知って驚いたんだけど(ガイジンさんばっか描いてるのかと思ってた)、この強烈な聖徳太子を読んだあとでは、しばらくは普通のは読めません、はい。
by bigblue909 | 2005-06-28 09:13 | マンガ
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ビッグブルーの本気な無駄話。


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