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イルカが愛を確かめにくる、青い海の底の日常生活

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「PLUTO プルートウ」の憎しみ 浦沢直樹×手塚治虫作

「PLUTO プルートウ」の憎しみ 浦沢直樹×手塚治虫作_a0031041_23101363.jpg最終巻の8巻発売に合わせて、1巻からずっと読み返しておいた。いやー1巻のノース2号のエピソードの涙腺破壊力はすごい。2回目なのに横隔膜ビクビクいうほど泣いてしまった。だけどあのエピソードがあまりにもすごすぎて、その後いろいろ頑張ってはいるものの「1巻超え」に成功してるとは思えず、ある意味損なエピソードでもあるような気がする。
そしてこの浦沢直樹という人のマンガを読むといつも思うんだけど、出てくるキャラクターの表情が暗いせいで、読んでるこっちまで鬱々とした気分になってきてしまう。どんなにテーマが重くても、救いようのない話でも、例えば手塚治虫の「アドルフに告ぐ」の峠草平の飄々とした感じや、「DEATH NOTE」のLの可笑しみなどは、マンガに必要不可欠な魅力ではなかろうか。浦沢マンガには、その明るさがない。

・・・というダメ出しを最終巻を読むまでは考えてたんだけど、やられた。最後のゲジヒトのエピソードは、あまりにも痛々しすぎてしばらくは読み返せないかも。真相はああなんだろうなという予想はついてたものの、セリフのひとつひとつが哀しいほどに美しくて、胸がひりひりして。ノース2号のとはまた違った涙が出た。2巻でゲジヒトとチップを交換して、アトムが見て涙した本当のメモリーは、あんなだったとは。
それにしても、ロボットたちそれぞれが、環境愛、芸術愛、家族愛、友愛、母性愛、父性愛を表してたなんて。それに対して、登場する人間たちが貧相すぎるほど魅力がないのは、やっぱりちょっと残念だなと。
そしてこのマンガには、フセインそっくりな人物が出てくるし、大量破壊兵器の調査にこじつけた攻撃という、明らかにイラクを思わせるエピソードも出てくる。環境問題もそうだし、実際の世界情勢と絡んだストーリーになっている。だから地上最強のロボットの7体のうち、1体も(実際は世界最強国の)アメリカにいないのは、きっと作者の無言の反発なんだろうなと思う。

アトムとプルートゥには、「極端な感情」として憎しみが注入されたけど、人が嬉しい! とか楽しい! とか、幸せだと思う時の感情の強さは、やっぱり憎しみには負けてしまうんだろうか。バカみたいだけど、COLDPLAYのライブを見た時(いや別にCOLDPLAYではなくても良いんだけど会場の人数の多さに比例して言うと)、私、「今この場所の歓喜の波動を空にむけたらものすごいパワーなんじゃないか」と考えることがあって。そういう波動を感じたくてライブに行くのかも。でもそれでも一人ひとりの喜び度数は、憎しみを一点に向けるのに比べたら、全然弱いのかな。
この最終巻を読む数日前、私は見知らぬ誰かを夢の中で激しく憎んでいた。その感情があまりにも生々しくて重くて、目覚めが悪くて寝直したんだけど、やっぱりまた夢で誰かを憎む。また目覚めが悪くて寝なおす、というのを結局3度繰り返して、その日はイヤな気持ちのまま起きて、疲れた体で会社に行った。人間の憎しみがどれだけ重くて苦しいものか、久しぶりに夢で思い出してしまった。
今の私は誰かを「憎む」ことがどんなに醜く無意味かも、相手の前に自分が疲弊することも知ってるし、そこまでいく前に自分を諭す方法も知っている。だけど結局は、なにかを強く憎むほどの出来事が、幸運なことに起こっていないだけで、私の中のマグマのようにドロドロとした憎しみは、決して綺麗に消え去ることなく、こうやって極々たまに夢に出てきては、うまく昇華してるだけなのかも。
映画「ブレードランナー」(これも大好きな映画のひとつ)の原作の題名は、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」だったけど、ロボットも夢で感情を放出できたら、人間にますます近づくのかも。なんて思ったりした。

あーそれにしても、久しぶりに良いものを読んだ気分。正直言って去年読んだ「MONSTER」はなにか物足りなかったし、なので「20世紀少年」も、同じ感じなのではと思って、読む気が一気に萎えて手をつけるのをやめてしまった。だけどこの「PLUTO」は、ロボット話好きの私には、やっぱりたまらない物語だった。
そして明日からは全く趣向が違って、買っておいた「ベルサイユのばら」です(笑) 草むらに~♪ 名も知れず~♪ 楽しみだなあ☆☆☆
by bigblue909 | 2009-07-03 23:14 | マンガ
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ビッグブルーの本気な無駄話。


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