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イルカが愛を確かめにくる、青い海の底の日常生活

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「荒野へ」 ジョン・クラカワー著

「荒野へ」 ジョン・クラカワー著_a0031041_937058.jpg映画「イントゥ・ザ・ワイルド」の原作となった本。上映された時、ショーン・ペンが監督ということで少し興味は持ったものの、結局観に行かなかった。だけどネットではかなり評判が良いのでレンタルで借りて観たんだけど、うーん、確かに良い映画だけど・・・となんだかしっくりこない。

映画的に言えば、物欲的な世の中と、自分の出生と両親に失望した優秀な若者が、全てを捨ててアラスカを目指し、最終的には小さなミスのために餓死して発見される、という実話を基にした物語。本の方では若者アレックスに共感した著者が、少ない情報で軌跡を辿り、自身の経験からの推測で書いてる部分が多く、当然ながら映画もかなり脚色している。
でも例えばその脚色(というかトラウマという名に美化してるようにも思える)の父親との関係などを除いてみても、私にはこういう行動に、あまり感心できないのだ。
だって、「全てを捨ててアラスカへ」って、実現するのが難しいのは、義務や周囲の人を捨てられるかどうかの点であって、実は反面ものすごく楽なのではないだろうか。「アレックスは人と係わるのがうまかったし、どんな仕事でも熱心にこなした」と、怠惰でも世捨て人でもないことを筆者は繰り返し強調するけど、それこそ厄介な部分なのだ。
同じ会社にずっといると、いろんな人が転勤や採用で出入りするのを目にするんだけど、たまにこういうアレックスみたいな人がやってくる。仕事もきちんとするし、愛想も良く人との対話も決して苦手じゃなさそうなのに、いつまでも馴染もうとせず、短い期間でプイとやめてしまう。受け入れようとしている方は多かれ少なかれ傷つくし、この手の人はやっぱり周囲にしてみれば迷惑だと思う。

私も実は20代前半ぐらいまではそんな感じの人間だったから、余計に見てて腹が立ってしまうのかもしれない。あの頃は人に好かれようが嫌われようが別になんとも思わなかったし、自分が好きな人と実のある話だけしてれば良いと思ってたけど、いま思うと本当に失礼なことをしてたと思う。多分誰だって本当はそうしたいけどしないだけなのだ。
なんでこんな世俗的に生きて無駄な話を毎日しなくてはならないんだと思うことは、自分がそれだけ高尚な人間だという証明にはならないし、そうやって周囲と隔てることはむしろ傲慢に思う。だから世間と足並み揃えていくことだって大事な勉強だし、それを放棄している人を見ると、なにやってんの? そうしたいのはあんただけだと思ってんの? と思ってしまうのだ。

だからアレックスのように必要なお金だけを稼ぐために働いて、好きな人とだけ係わって、家族にも連絡せずアラスカへ向かうって、そんなに美しい話だろうか。アレックスは川を渡ろうと(アラスカから出ようと)して戻れなくなったように書いてあったけど、その目的地は家だったのか、きちんと社会人として働こうと思ってたのかは誰にもわからない。アラスカにあったものは自分の思ってたものと違ったから、今度は砂漠に行こう、なんて思ってたかもしれないのに。
by bigblue909 | 2009-04-08 09:40 | 読書感想
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ビッグブルーの本気な無駄話。


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